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誰かを好きになることは(6)

「なぁ、瀬口。俺、お前に嫌なことした?」 「して、な……い」 どうしよう。 僕は、どうすればいいの。 だってさ、そうやって聞かれたところで、答えなんか言えやしないんだから。 「瀬口」 「矢野くんは、何もしてない……」 「じゃあ何で?」 矢野くんの口調が、少しだけ強くなった。 怒ってるよね。 僕がはっきりしないから。 でも、でもね。 “好き”だなんて、言えるはずないでしょう? 僕は俯いて、自分の制服のズボンをぎゅっと握りしめた。 「瀬口」 「本当に、何も、矢野くんは、悪くないから……」 「瀬口……!」 「今は、言えないんだよ、だから、もう聞かないでっ」 頼むから、もうこれ以上聞かないで。 どうすることもできないんだ。 どうしたらいいのかも分からないんだよ。 諦めようとしたって、結局は諦め切れないし。 自分の気持ちを押し殺して一緒にいたって、いつか絶対に溢れ出してしまう。 怖いんだよ。 僕のこの勝手な想いで、大切な大切な矢野くんを失うことが。 「ふざけんなよ……!」 「……え、」 突然、予想もしなかった言葉が矢野くんの口からこぼれた。 今まで聞いたことのない声の低さに驚き、反射的に顔を上げる。 視界に入って来たのは、声から受けた印象とは違って、顔を歪めて今にも泣き出しそうになっている矢野くん。

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