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誰かを好きになることは(8)
「瀬口お前……、帰れって」
「嫌だ……!」
「何するか分かんねぇって言っただろうが! 俺、お前のこと好きなんだって……、」
「うん……」
「まじ勝手すぎだろ」
“信じらんねぇ”
そう言った矢野くんの首に腕を回し、ぎゅうっと力いっぱいに抱きつく。
離せと言われても、引き剥がそうとされても。
だって、僕はね。
僕も、ね。
「矢野くん!」
夢、みたいだ。
こんなに嬉しいことは、もうきっと他にはないよ。
「僕も、好きなんだもん」
いつもいつも、君のことで頭がいっぱいだった。
胸が、苦しかった。
「矢野くんが、好き、なんだよ……!」
ずっと怖かったよ。
いつか嫌われる日が来ることが。
でも。
もう、そんなことは、考えなくていいんでしょう?
「矢野くん……」
「……、」
「好き……っ」
「っ、」
力強く背中に回された手は小さく震えていて。
「矢野くん……、」
何も言わない代わりに、聞こえてきたのは小さな嗚咽。
それすらも、愛しく思えてくる。
勝手な想いじゃなかったんだね。
ずっと大切にしていいんだ。
「好き……」
今まで言えなかった想いをたくさん口にして、
僕はこつんと矢野くんのおでこに自分のをくっつけた。
END
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