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好きだと言って(1)

勉強を教えて欲しいと、幼なじみで恋人の翔琉に頼まれたから家に来てみれば。 翔琉はわざわざ来てやった俺にコップ一杯の茶も出さずに、いきなりソファーに座らせた。 それから戸惑う俺の膝に跨がり、ポケットから五円玉を取り出した。 しかも、紐付き。 「何のマネだ」 嫌な予感しかしない。 勉強を教えて欲しいって言ったくせに、この状況は一体何?  翔琉、お前は何をするつもりだ? 勉強をするのに、俺の膝に乗る必要性も五円玉の必要性もよく分からないんですけど。 俺は翔琉の脇の下に手を入れ、猫を抱き上げるようにして膝から下ろそうと試みた。 だけど、咄嗟に体に力を入れそれに抵抗する翔琉を退かすことなんてできなくて。 「ちょっと待ってって。動くな。今からするからじっとしてくれなきゃ困るって」 「はぁ?」   だから、何を? 何をすんの? 目の前に、五円玉が浮かんでる。 「いいか、いくぞ」 いやいやいや、 “いいか”って言われても、何がいいのか分からないし。 そもそも、“いくぞ”って何? そんなに構えなきゃやれないこと? 「すぐ終わるから」 「はぁー……」 でも、見てる限りじゃ絶対に翔琉はやめる気はないだろうな。 仕方がない。 たまには言うことを聞いてやるか。 「分かった、大人しくしてるからさっさとやれよ」 そう言うと、翔琉はこくりと頷いて。 それから取り出した五円玉、をゆらゆらと揺らし始めた。

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