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好きだと言って(2)
「あなたはだんだん俺に“好き”だと言いたくなる~。あなたはだん……あでっ!」
大人しくしてやった俺がばかだったと、翔琉のやりたいことが始まってすぐに後悔した。
単細胞のコイツがすることと言ったら、ろくな事じゃないって分かっていたはずなのに。
五円玉を取り上げ頭を叩くと、翔琉は全くもって迫力のない涙目で俺を睨みつけた。
「返せ! 俺の五円玉!」
「ばかじゃねーのお前。夏の暑さでやられたか。いや、頭がおかしいのはもともとだったな」
紐を外し、五円玉だけを手に乗せると、今度は何が気に入らなかったのか、りんごでも持ってたら潰せるんじゃね? ってくらいの握力で五円玉を握り締めた。
今のくだりでそんなムキになることがあった? すげぇくだらねーことしかしてないだろ、てめぇは。
目の近くまで伸びた前髪を掴み引っ張ると、翔琉は「うーっ!」と唸って握り締めていた五円玉を俺のおでこに押しつけた。
「って、何すんだ!」
「……いらない! 五円玉なんかいらない!」
「返せって言ったのはお前だろ!」
「俺はいたって正気だ! ばかはお前だばか!」
「え? 今? 今それにツッコミ入れんの? 反応遅すぎだろ。やっぱお前はばかだな。それにばかって言う奴がばかなんだよ。よってお前はばかだ。自らをもって証明しただろ今」
俺は、おでこに押しつけられた五円玉を翔琉から奪い、近くのテーブルに置いた。
するとその一瞬の気の緩みを見計らって、翔琉は俺の胸に頭突きをかました。
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