29 / 226

ばかとバカの関係(1)

俺のクラスには、すげーばかがいる。 飛行機雲を見つければ、「金魚のうんちー」なんて下品な言葉を発するし。 何もないところでつまづいては、「僕は見えない何かに呪われているのか!?」なんてヒステリックに叫びだすし。 数学の授業中に寝るなと怒られては、「先生にそんなこと言う権利はない。僕は数学の神様にお許しをいただいたんだ!」と真顔で主張するし。 こんなことばっか。 言いだしたらキリがないくらい。 ちょっとどころかかなり変わってるから、普通は周りも引きそうだけれど。 何でかな? みんながアイツのこと大好きで。 名前が柏木だから最初に“ば”を付けて、“ばかしわぎ”なんて呼んでたけど。  最近ではそれも面倒になって、もはや“ばか”呼び。 でも本気でバカにして見下してるんじゃなくて、ちょっと柔らかい感じ。 ひらがなの“ばか”。 「おーい、ばかーっ、ちょっとこっち来い」 今日も誰かがばかを呼ぶ。 少しは嫌がるかと思えば、“ばか”呼びでも喜んでアイツは飛んで行く。 「お前はいつまで経っても身長伸びないのな?」 ばかを呼んだ奴はそう言って、“ほらここに座って”と自分の膝に座らせ、後ろからぎゅっと抱きしめた。 「でもまぁ、ちっさいからこうすると気持ちいんだよなぁ」 「くすぐったい」 「ばか可愛いー」 ばかはばかのくせに人気者で、 ばかのくせに可愛くて。 可愛くて。 可愛いから。 だから、 俺までばかになっちまった。

ともだちにシェアしよう!