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ばかとバカの関係(1)
俺のクラスには、すげーばかがいる。
飛行機雲を見つければ、「金魚のうんちー」なんて下品な言葉を発するし。
何もないところでつまづいては、「僕は見えない何かに呪われているのか!?」なんてヒステリックに叫びだすし。
数学の授業中に寝るなと怒られては、「先生にそんなこと言う権利はない。僕は数学の神様にお許しをいただいたんだ!」と真顔で主張するし。
こんなことばっか。
言いだしたらキリがないくらい。
ちょっとどころかかなり変わってるから、普通は周りも引きそうだけれど。
何でかな?
みんながアイツのこと大好きで。
名前が柏木だから最初に“ば”を付けて、“ばかしわぎ”なんて呼んでたけど。
最近ではそれも面倒になって、もはや“ばか”呼び。
でも本気でバカにして見下してるんじゃなくて、ちょっと柔らかい感じ。
ひらがなの“ばか”。
「おーい、ばかーっ、ちょっとこっち来い」
今日も誰かがばかを呼ぶ。
少しは嫌がるかと思えば、“ばか”呼びでも喜んでアイツは飛んで行く。
「お前はいつまで経っても身長伸びないのな?」
ばかを呼んだ奴はそう言って、“ほらここに座って”と自分の膝に座らせ、後ろからぎゅっと抱きしめた。
「でもまぁ、ちっさいからこうすると気持ちいんだよなぁ」
「くすぐったい」
「ばか可愛いー」
ばかはばかのくせに人気者で、
ばかのくせに可愛くて。
可愛くて。
可愛いから。
だから、
俺までばかになっちまった。
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