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優しさの意味(1)

だんだんと夏に近付き、暖かくなってきた今日この頃。 俺はいつものように屋上で、山下を抱きしめて寝ていた。  もぞもぞと腕の中で動いて、俺の胸に頬を擦り寄せる山下。 「ふっ」 幸せそうなその寝顔に、俺まで幸せな気持ちになる。 体が小さくて、色も白くって。 ぱっちりした二重の目に、ぷっくりとした唇。 女の子と言われても何の違和感もないその容姿のせいか、クラスでちょくちょく苛められるようになった。 クラスの奴も本気じゃないとは思う。 山下の反応が可愛いから、苛めたくなるその気持ちも分からなくはない。 だけど、やっぱり限度ってものがあるし。 そろそろヤバいんじゃないかって思ってる時に、たまたま屋上で泣いてる山下を見て。 いつもこんなふうに泣いてたの? って思ったら、胸がぎゅうって締め付けられた。 都合のいいことに、俺がちょっとやんちゃしてたこともあってか、クラスで俺に逆らう奴もいなくて。 俺が山下に構いだすと、山下への苛めはなくなった。 ちょっと助けてやるつもりだったから、苛める奴がいなくなったら今まで通り、関わるの止めようって思ってた。 だけど、俺を見て「ありがとう」って笑う山下が可愛いし。 抱きしめると温かいし。 一緒にいて楽しいし。 そうやって、何だかんだで一緒にいたら、離れられなくなって。 離したくなくなって。 こんなつもりなんかなかったのに。

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