32 / 226
優しさの意味(1)
だんだんと夏に近付き、暖かくなってきた今日この頃。
俺はいつものように屋上で、山下を抱きしめて寝ていた。
もぞもぞと腕の中で動いて、俺の胸に頬を擦り寄せる山下。
「ふっ」
幸せそうなその寝顔に、俺まで幸せな気持ちになる。
体が小さくて、色も白くって。
ぱっちりした二重の目に、ぷっくりとした唇。
女の子と言われても何の違和感もないその容姿のせいか、クラスでちょくちょく苛められるようになった。
クラスの奴も本気じゃないとは思う。
山下の反応が可愛いから、苛めたくなるその気持ちも分からなくはない。
だけど、やっぱり限度ってものがあるし。
そろそろヤバいんじゃないかって思ってる時に、たまたま屋上で泣いてる山下を見て。
いつもこんなふうに泣いてたの? って思ったら、胸がぎゅうって締め付けられた。
都合のいいことに、俺がちょっとやんちゃしてたこともあってか、クラスで俺に逆らう奴もいなくて。
俺が山下に構いだすと、山下への苛めはなくなった。
ちょっと助けてやるつもりだったから、苛める奴がいなくなったら今まで通り、関わるの止めようって思ってた。
だけど、俺を見て「ありがとう」って笑う山下が可愛いし。
抱きしめると温かいし。
一緒にいて楽しいし。
そうやって、何だかんだで一緒にいたら、離れられなくなって。
離したくなくなって。
こんなつもりなんかなかったのに。
ともだちにシェアしよう!