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口実(3)
わざわざ高尾に見つかると分かっていて、待ち合わせ時間の少し前に女を連れ込んでいるのは、怒る高尾が見たいから。
生徒会室に連れ込むな、会長らしくしろって、そんな言葉でさえも、俺には。
錯覚してしまうんだよ。
生徒会の威厳とか会長としての気品とかが大切なのではなく、高尾が俺を怒るのは嫉妬してくれているからじゃあないかって。
都合の良い思考だと笑われてもしょうがないだろう。それも、分かってる。十分に分かってるんだ。
だけどさぁ、高尾。お前に抱きしめてもらえるのは、こういう時しかないだろう?
誰がやめてなんかやるものか。
絶対にやめてなんかやらない。
俺がお前のことを好きでいる限り、ずっとずっと続けてやる。
だからもっと、俺のことを怒って。
俺に構ってくれよ。怒鳴ったり呆れたり、何でもいいから。
その代わり、俺も我慢する。
お前のことが好きだなんて、そんなことは絶対に言わない。
お前に、今以上の迷惑をかけるつもりはないからさ。
「ねぇ、高尾」
「何ですか?」
「……ごめんな」
「謝るくらいなら、もうやめてくださいね」
高尾、好き。好きなんだよ。
「ばーか」
「バカは貴方ですよ」
あふれ出る想いを必死に飲み込んで、俺は彼の腕の中でそっと、目を閉じた。
END
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