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永遠に(4)
「本当は誕生日に渡すつもりだったんだけどね」
視線を落とし、自分の指を見てみれば、視界に入ってきたのは小さなダイヤがはめ込まれたシンプルな指輪。
「その健やかなる時も、病める時も、喜びの時も、悲しみの時も、富める時も、貧しい時も、私を愛し、敬い、そして尽くすことを誓いますか?」
低めの優しい声で、真っ直ぐに俺を見つめたまま彼はそんなことを言い出した。
俺にタオルをかけたのは、こういうことだったのかと、彼の想いにまた目頭が熱くなる。
彼はタオル越しに、俺の頬を大きな手で包み込み、「誓いの言葉って、こんな感じだよね……?」と自信無さ気に、でもにこりと微笑んでくれた。
「……っ、」
誓いの言葉なんて、ドラマの中でしか聞いたことがないし、いちいち記憶に留めてもいないから、合ってるのかも間違ってるのかも俺には分からない。
分からないけれど、でも今はそんなこと、どうだっていいんだ。
大好きな彼が俺のために今こんなふうにしてくれていることが、何よりも嬉しい。
ドレスを着ることはできないから。
本物じゃなくて、それがバスタオルであっても。
そんなことは、どうでもいいんだ。
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