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分かったことは。(6)
「……った、」
一歩近づくと、もっとはっきりと見えてきた。カシャカシャと聞こえていたのは、どうやらコンビニの袋で、飛んで行った音がしたものは眼鏡らしい。俺の足に当たった。
この眼鏡に、この髪型。それにさっきの声。
これは俺の疲れがどうこうとか、幽霊がどうこうとかではなく、完全に本物の主任だ。
「主任?」
「……あぁ、やっと。野崎くん、何度呼んでも無視するんだもの。あげく……少しだけ、驚いたよ」
「あ、すんません。まさかいると思わなかったんで」
落ちた眼鏡を拾いあげ、主任に手渡すと、小さくありがとうとお礼を言われた。いや、あんたがこうなったのは、ほぼ俺のせいなんですけどね。
さっきから失礼な態度ばかり取ってる俺に対してお礼を言うなんて変な人だ。
それに俺も、今まで礼儀正しくしてきたけれど、今日はそうできそうにない。幻聴と思ってやってしまった失礼な返しを、訂正しようとは思わないし、廊下に座り込んでる主任を引っ張り起こしてあげようとも思わないから。
「てか、主任。何してるんですか? こんな時間に、こんなところで」
「あ、野崎くんに差し入れを、と思ってね」
「俺に?」
「仕事、まだやってると思ったから」
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