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鯉のぼりの思い出と。(3)

いつも侵入されてた窓を開ける音も俺の名前を呼ぶ声も急にしなくなって、電気のつかない隣の部屋を見ては眠れない夜が続いた。 タカのいる日常に甘えていないで、俺ももっと勉強すれば良かったって思ったよ。そうしたら同じ大学に行けたかな? とか、ルームシェアもできたかな? とか、一人で悶々と考えてた。 んで、ふと思ったんだ。一緒にいられないのは大学の間だけじゃあないって。 卒業して働き出したら別々の道だし、地元に帰って来るのかも分からないし、結婚とかしたらタカと一緒に過ごせる時間なんかこれっぽっちもないって。 幼なじみだから感覚が狂ってた。タカが俺の隣にいるのは、当たり前じゃないんだもの。 「トモ」 「なに、」 「お帰りって、言ってくれねぇの?」 「……っ、」 タカが俺の顔をのぞき込んだ。今にも鼻がぶつかってしまいそうな距離で。戸惑って目を逸らしたら、顎を掴まれて無理矢理視線を合わせられた。 「せっかくお前に会いに帰って来たのに、お帰りもないとは驚きだな」 「んだよ、そんなこといちいち言わなくたっていいだろ」 「ばーか」 「バカって言うな!」   お帰りだなんて、誰が言うか。お帰りって言ってもゴールデンウィークは短いから、すぐにタカは一人暮らししてる家に帰ってしまう。 行ってらっしゃいって言って、次にお帰りを言えるのはいつになるのか分からないのに。 そんな言葉、簡単に言いたくない。

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