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鯉のぼりの思い出と。(5)
「トモ、泣くなって」
「泣いて、ねぇ……っ」
「泣いてんだろ。鼻水まで出てっし」
「汗……だから、」
「はぁ? そんな汗見たことねぇよ」
うるせぇバカ見んな! って、ゴシゴシと手の甲で涙と鼻水を拭いた。今日は散々だ。格好悪すぎるし、タカのこと呆れさせてばっかりだし。
というか、帰って来るのなら帰って来るって連絡入れてくれれば良かったのに。タカもいきなり帰って来るとか、ひどいだろ。
そんなサプライズ誰も望んでない。
「トモ、」
「なに、……え? ちょっ、」
「黙れって」
突然、ふわりと体が浮いた。何が起きてる?と必死に頭を働かせ、タカに抱き上げられていると理解できた瞬間にベッドに落とされた。
相変わらず青い鯉のぼりは、俺の足に絡まっていて、さらにそれをタカがもっと固定してしまったもんだから完全に自力じゃ抜け出せなくなった。
バタバタと暴れる余裕もなくベッドに寝かされた俺の横に、タカも寝ころぶ。
「小さい頃さ、よく押入でこの鯉のぼりの中に入って昼寝してたよな」
「……うん、」
「俺さぁ、ちっこいお前に腕枕してやるの、けっこう好きだった。起きた時に痺れてめちゃくちゃ痛いんだけどな」
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