101 / 226

僕らはそれを愛と呼ぶ(2)

「だからさぁ、」 河原が一歩分くらい俺の方に近づいて、それから俺のおでこをぱちんと叩いた。 「悩み事があるなら、俺にちゃんと言って」 別に解決はできなくても聞くくらいはするから、って怒った顔をしながらそんなことを言う。 俺はそんな河原の頭を撫でて、「何もねぇよ」って笑って誤魔化した。 なぁ河原。けどそうやって言ってるお前も……。 本当は、悩む必要なんかないんだ。 河原だって俺のことが好きだから。俺の一方的な想いじゃないから。 ……俺、知ってるんだよ。 前に俺の家に河原が泊まりに来た時、二つ並べられた布団を嬉しそうに見つめて。 でもその夜、てっきり寝ていると思ったのか俺の手に遠慮がちに触れて、声を殺しながら泣いていたこと。 泣きそうになってるのは、俺だけじゃないよな。お前も、そうなんだろ? どちらかが告白すれば、普通ならうまくいくんだろう。両想いになれて、ハッピーエンド。 だけど、そうできないのがお互いに分かってるから、俺たちは一歩踏み出すことをしない。 言えないんじゃない、言わないんだ。 俺らは、男同士で。 しかもまだ高校生だから、二人で生きていくこともできない。 社会から白い目で見られた時、河原を守ってやれるほど俺も強くない。 「なぁ、河原」 「あー?」 「いつかさ……」 それ以上言えなくなった俺に、河原が優しく笑った。 俺は言葉を飲み込み、心の中で呟く。 “二人っきりの世界になったらいいな” いつかはきっと……。 だけど今は、願うだけ。 《僕らはそれを愛と呼ぶ》 END

ともだちにシェアしよう!