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君と会える日後日談(3)

返事を待っている間、受話器からは優しい音楽が流れてくる。 俺は、そっと目を閉じた。 時雨に会えるかもしれない、そう思うとそわそわしてくる。足でトントンと床を叩いた。 早く、早く……! 俺は、時雨に会いたいんだ。 それから時雨のお母さんに、「伝えたら『すぐに行く!』って家を飛び出して行ったわ」と言われ、俺はお礼を言って電話を切ると、玄関に行き時雨が来るのを待った。 しばらくすると「皐月くん!」って、俺の名前を呼ぶ時雨の声が聞こえた。 三日振りに聞いたその声に、とてつもなく嬉しさを感じる。 「時雨……! 俺ね、いいことを思いついたんだ!」 「いいこと……?」 「いいから早く」 ついて来てと叫んで、俺は庭へ走ると、ホースを手に取った。 「ホース……?」 時雨が、何をする気なのかと、不思議そうな声を出す。 俺は、さっきみたいにホースから水を出してみた。 「雨みたいに見えるだろ? これなら時雨が、見えるようになるかと思ってさ」 蛇口を捻り、水量を増やした。 それから、ホースの口を軽く親指で押す。 「なぁ、これすごいだろ?」 ザーッと出てくる水は、本当に雨みたいで。 興奮気味に時雨に話しかけると、何を言っているのかは分からないけれど、ぼそぼそと声が聞こえた。 「時雨、何か言った?」 ホースから出る水の音のせいで、時雨の声が聞き取れない。 「時雨?」 どこにいるのか分からない時雨の名前を呼ぶ。 仕方がないから、ひとまず水を止めようと、蛇口に手を伸ばしたその時。 今にも泣き出しそうな、時雨の声が聞こえた。

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