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想いの先に。(1)

君が好き。好きで好きでたまらない。 ──ただそれだけなのに。 世界はきっと、微笑んではくれない。 授業中、真剣な眼差しで黒板を見る彼を横目でそっと見つめながら、ふとそんなことを考えた。 この想いを打ち明けられる日は来ない。 もし来たとしても、砕け散ってなくなるに決まっている。 それならば、こうして見ているだけで十分じゃあないかって、苦笑しながらも自分に言い聞かせることしかできない。 「はぁ……、」 彼のさらさらの髪が、窓からの風に吹かれて少しだけ揺れている。 黒板からノートへと視線が移り、それに合わせて俺も視線を動かした。 その臥せた目が色っぽくて好き。高い鼻も、きゅっと結ばれた口元も。 「(好き……)」 小さく口を開けて、声には出さずに呟く。 もう何度目なのかも忘れてしまった。 俺は弱虫だから、これが今の精一杯。 届くはずのない想い。    じわりと、目頭が熱くなった。 あぁ……、彼の頬に触れて、それから優しく笑い合えたのなら、強く抱きしめることができたのなら。 それはどんなに幸せなことなのだろうか。 視線を戻し、黒板を見つめる。 先生がカツカツと音を立てながら、白いチョークで公式を書いた。 その下に続く計算式。 「はぁ、」 俺はため息をつき、机にうつ伏せになった。 あのはっきりと書かれた数字のように、この想いの先に答えはあるのだろうか。 そっと目を閉じると、涙が頬を伝った。

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