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強がりないちご(10)
背中には森川の胸が当たっていて、どくどくと鼓動が伝わってきた。それに、森川の体温も。
「なぁ、俺さ、お前に何かした?」
「……っ、」
どうせこの状況じゃ逃げることなんて不可能なのに、森川は俺が逃げないようにって手首を掴んだ。そしてそのまま無理矢理引っ張られ振り向かされた。
今日初めて、森川と視線がぶつかる。
「なぁ、俺が何かしたんだろ?」
「何言ってんの。い、意味分かんねぇ」
掴まれた手首が熱い。
その熱が全身に回って、体中が熱くなるんじゃないだろうか。
それに掴まれた手首から、俺のドキドキが森川に伝わってしまったらどうしよう。
もう嫌だよ。
俺は、森川から視線を逸らした。
それでも森川はまだ、俺のことを見ている。視線を、感じる。
「ほらまた。意味分かんないのは俺の方だっての。お前、俺んこと避けてんじゃん」
「別に避けてねぇし。お前の、気のせいだろ。てか、手、離せよ」
「やだ」
“こっち見ろよ”って、さらに俺の手首を握る力を強める。
「お前、まじキモい。掴まれたとこからカビ生えてくるから、やめろよ本当」
今顔なんか見たら絶対に泣いてしまうから。
いつも通り、思ってもない言葉で自分を守る。
だけど、悔しい。
こんな状況でも、こうすることでしか自分を守れないことが。
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