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もう一度この指に(2)
「高校卒業すると、何だかちょっと気分が大人になるだろ」
草の生えた地面を、彼が靴の先で蹴った。
「だから、格好つけてこんなことしてみた」
指で鼻先を触りながら、何度も何度も同じ場所を蹴る。少しだけ土が覗いた。
「その割にはすっげぇ安物なんだけどさぁ、」
自信なさげに俯いて、声も段々と小さくなる。
「でもいつかちゃんとしたやつを、そこにはめてやるから」
かと思えばすぐに顔を上げ、でも僕とは目を合わせてくれない。
「ひとまず今は、それが俺のものって印。だからそこに、はめててよ」
どこを見つめているのやら。
視線は僕じゃないどこかに向けられていて、彼はいつになく早口だ。
木々の間から差し込む日の光が眩しくて、僕も彼を見上げて無理矢理にでも目を合わせることはできない。
……あ、木漏れ日がほっぺに落ちてる。
いつもクールで“可愛い”が似合わない彼が、どうしてかな? 今日は可愛いく思える。
僕はベンチから立ち上がり、指輪を優介に向けると、「大切にする!」と大きな声で叫んだ。
そして手を伸ばして彼に抱きつき、木漏れ日が落ちたほっぺにキスをした。
その時の優しい笑顔も、僕を抱きしめ返してくれた彼の温もりも、何があったってこれからも、きっと忘れない。
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