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もう一度この指に(3)
写真の中の自分の指にはめられた指輪を、懐かしく思いながら指でなぞった。
珍しく照れていたあの頃の彼が、僕に笑いかけてくる。
「パパー、ごはんだよー」
部屋のドアを開けて、子どもが少しだけ顔を出した。
「今、行く」
にっこり笑った娘に笑い返し、僕は引き出しにその写真をしまった。
どたどたと妻の元へ向かう娘の足音を聞きながら目を瞑り、そっと薬指に触れる。
だけど僕の指にはもう、あの感触はない。
いつも彼は笑っていた。
たまには照れた顔を見せたりなんかもして。
幸せな毎日だったと思うよ。
でも最後に見たのは、泣き顔だった。
ごめん、と何度も口にして、彼は僕の前からいなくなってしまった。
お互いがお互いを守るには、僕らはまだ幼すぎた。
ねぇ……、君は今幸せですか?
僕は、幸せだよ。僕のことを君みたいに愛してくれる人に出会えたし、大切な家族もできた。
だから君も、そうであって欲しいな。
あの時にできた傷跡を癒せるくらいに、今が幸せであることを願うよ。
だけどね、少しだけ欲を言わせて。
生まれ変わってまた出会うことができたら、その時はもう一度、この指に君のものって印が欲しい。
矛盾してるって、呆れられるだろうか。
君を幸せにしたい僕と、君に幸せにしてもらいたい僕も、確かにまだここにいるんだ。
君との思い出は、懐かしめるだけのものになるには、まだ時間がかかりそう。
深呼吸をしてゆっくりと立ち上がり、僕は家族の待つリビングへと向かった。
END
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