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見てるよ。(1)

「原田、おはよう」 「……おはよ、」 教室に入るとすぐに、一番前の席に座る笹野くんに挨拶をされた。 これは僕と彼が毎朝しているやり取りだけれど、僕はいつまで経ってもこの挨拶にも慣れない。 朝、家を出てからずっと、今日こそは明るく挨拶を返そうと意気込むのに、いざその時になると、微笑むこともできないうえに、いつも小さい声でごにょごょと返すだけ。 普段は話しかけられてもうまく反応できないから、せめてこの挨拶だけは──ってそう思うのに、笹野くんの顔を見ると、もうそれだけでいっぱいいっぱいになって、うまく言葉が出てこないのだ。 おはようの、たった四文字も。 笹野くんは優しい人だから、こんな地味な僕にでも声をかけてくれるけれど、僕がずっとこんな感じの反応をしていたら、さすがにめんどうになるだろうと、それこそめんどうな思考がぐるぐると頭の中を無限ループする。 笹野くんより早く学校に来て、笹野くんとは離れている自分の席に座ってしまえば、彼がわざわざ僕に挨拶をすることはなくなるし、僕もこうして色々考えなくて済むのだろう。それに、たとえ早く学校に来ることができなくても、笹野くんの席が近い前のドアじゃあなくて、後ろの方から入ればいい。 

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