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見てるよ。(5)
「何も言わないから、繋ぎ直しちゃった」
「……あ、」
「すぐに拒否しなかったから、原田も嫌じゃなかったんだろ?」
「……あぅ」
「ずっと、こうしてみたかった」
笹野くんは何を言ってるんだろうって、なんだか泣きそうになってきた。好きな人からこんなこと言われて、手まで繋がれて、それはとても幸せなことなのに。
意図が掴めないから浮かれてもいられない。
そもそもどうして今日なのか。今、なのか。
今までは挨拶程度で、それもまともに返せない僕で。
彼が話しかけてくれることも、たまにはあったけれど、それは全部挨拶以下の返事しかできていない。ちゃんと顔を、目を見て返したことも、言葉らしい言葉を返したこともない。
そんな僕に対しての、彼この発言は謎だらけだ。
「笹野くん、」
「ん?」
「どうして、」
「あっ、」
繋いでいた手を、突然離された。階段を上がって教室が見えたから。苦しくも楽しかった時間が終わる。あっという間だった。彼の体温はほんのちょっとだけ残っていて、それがくすぐったくもある。
「……ふぅ、」
理由は聞けなかったけれど、もうどうでもよくなっていた。
これが、今日だけの、今だけの彼の気まぐれでも。
それだけでもう十分だと、先に教室に入った彼の背中を見つめた。
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