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見てるよ。(6)
こんな僕だから。
何かアクションを起こせるわけでもないし、これからも彼との関係性は変わらないだろう。
同じようにおどおどしながら挨拶だけする毎日。
今日はきっと、そんな日常に魔法がかけられただけ。
神様が僕にくれた、素敵な時間。
いつものメンバーの所へ行った彼を横目に見ながら、僕は一人空いている席に座った。
本当は少しだけ、このまま隣に座れたらなぁって欲もあった。
だけど、彼の席はメンバーが確保しているし、そんなことできるはずもない。
やっぱり魔法は解かれてしまったんだ。
もう、終わり。
終わってしまった。
「はぁ、」
人って不思議だ。……いや、僕だけ?
この短時間で随分と欲張りになってしまった。終わってしまったことが、悲しい。もっとって、そう思ってしまう。
手にはまだ温もりがかすかに残っているし、僕の名前を呼ぶ彼の声も、今、隣で囁かれているかのように再生される。
ずっとこうしてみたかったと、僕の心を踊らせた彼の言葉が、何度も何度も。
やっぱり全然十分じゃないよ。何が十分なんだ。知りたい。彼の気持ちが知りたい。きれいごとばかり言ってられない。
そうだよ、だってさ。
何もできないだなんて、そんなものはただの逃げなんだ。
本当はずっと彼のことを欲しいと、そう思ってきただろう?
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