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見てるよ。(9)

笹野くんの言葉に、慌てて顔を隠した。そんな僕を見て、また彼が笑う。 表情が読めなくて何を考えているのか分からないと、そう言われてきた僕なのに。 彼は皆とは反対のことを言うんだね。ますます分からないことだらけだ。 「嘘だと思う?」 「え?」 「俺が、原田の考えてること分かるってやつ」 頬に触れていた手を動かし、笹野くんは僕の頭を撫でた。それから毛先に指を絡ませ、くるくるさせて遊び始める。きれいな黒髪だね、とそんなことを言いながら。 「どうして分かるのかは簡単だよ。原田のこと、よく見てるから」 「僕、を……?」 「原田だって俺のこと、よく見てるだろう? 俺だって見てるよ」  髪に触れるのをやめ、笹野くんが真剣な眼差しで僕を見る。射抜かれるようなその視線に、逸らすこともできず、僕もじっと見つめ返した。 笹野くんを視線で追っていたことが本人にバレてしまっていたんだと、その動揺のせいで心臓が早く動いてうるさいし、笹野くんも僕を見ているって一体どういうことなんだろうと頭の中はぐるぐるしている。 「でも、原田は見てるようで見てないんだ。俺のこと、全然見てないよ」 「笹野くん……?」 「見て欲しいのに見てくれない原田には、意地悪しちゃうから。教えてあげない。自分で考えて」 何のことかと、そう聞き返す前に手を掴まれた。早く教室に戻ろうと、彼が僕の手を引く。 僕たちは誰もいない廊下を、さっきみたいな恋人繋ぎはせずに、“ただ引っ張ってる”との言葉が似合いそうな繋ぎ方で歩いた。

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