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見てるよ。(10)
◇
「原田、おはよう」
「お、おはよう……、」
笹野くんとの朝の挨拶。
相変わらずうまくいかないけれど、移動教室での出来事から今日までの一週間、それまでと同じように続けている。
ただ少しだけ、視線の合う時間が少なくなってしまったように思うんだ。
「どうした?」
「え? あ、……なんでもない」
今日も少しだけ短い。
そんなことをぼんやりと考えていると、笹野くんに不思議そうに見られた。そりゃあそうだ。いつもは逃げるようにして自分の席に着くのに、そうしないで目の前に突っ立っているんだから。
「今日は、まだ寝ぼけてる?」
「ちがっ、」
「また、授業で寝ないようにね」
「うん、」
ひらひらと手を振る笹野くんに、何となくぺこりと頭を下げ、それから僕は自分の席へと着いた。
笹野くんに言われた言葉が気になって、あれからずっと考えているのに、答えはまだ分からない。ぐるぐる悩んでいる悩みが増えてしまっただけ。それに、視線をあまり合わせてくれなくなったことも、どうしてなのかよく分からない。
ちらりとまた、笹野くんを見つめる。
確かにあれから少しだけ関係性は変わってしまったのに。
それでも僕はまだ、輪の中で笑う彼を見つめ、高鳴る胸の鼓動に服越しに触れることしかできない。
見ているようで見ていないって?
笹野くんは僕に何が言いたかったの?
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