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見てるよ。(11)

移動教室の前の休み時間。僕は一人で、皆が先に行くのをそっと見ていた。教科書を机の上に用意しながら、教室が静かになるのをじっと待つ。 今日もまた先週みたいに、笹野くんが一緒に行ってくれるんじゃあないかって、少しだけ期待をしたけれど、彼はいつもの輪の中にいて全然僕の方を見てくれはしない。もうあんなことは二度と起こらないのかって考えると、目頭が熱くなった。 他の人からすれば全然分からないのだろうけど、でもほんの少し、視線を合わせてくれる時間が減ったの。 このままどんどん短くなって、そのうち視線すら合わなくなって。 いつの間にか挨拶もしなくなって、彼と僕の接点はなくなるのかな。 そうしたら僕は本当に、ただ彼を遠くから見ることしかできなくなるね。 僕の名前を呼んでくれることも、もちろんなくなってしまうから、みんなに囲まれて笑う彼の声を聞くしかなくなるんだ。 原田、って呼んでもらえなくなるんだ。 「……ぁ、」 ガラガラと椅子を引く音がした。俯いていた顔を上げると、笹野くんと、同じグループの子が立ち上がったところだった。 教室に残っているのは、僕と彼らだけ。 笹野くんたちが教室を出て、少ししてから僕も行こうと、また視線を下に向けようとした時、どうしてか今すぐ顔を上げなきゃいけないような気がして、もう一度顔を上げた。 「……っ、」 笹野くんと目が合う。いつものように笑ってはくれないけど、でも、確かに彼は僕を見ている。

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