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見てるよ。(12)
「笹野くん……!」
掠れた小さな声で名前を呼んだ。
とっさに立ち上がり、机の上の教材を手に取る。
笹野くんはまだ教室の入り口で立ち止まり、僕をじっと見ている。そのせいで、一緒に行くはずのグループの子たちと笹野くんの距離が、少しずつ開いた。
「……っ、」
もしかして僕のことを待ってくれているんじゃあないかって、そんな都合の良い考えで頭の中が埋まっていく。
早くしなきゃって、僕は入り口から離れている席から、笹野くんのところへと急いだ。
机と机の間をうまく通り抜けていく。
だけど、後少しで追いつくってところで、笹野くんは歩き出した。それから小走りでみんなの輪の中に入っていってしまった。
「……っ、」
これも、意地悪なの?
僕が笹野くんの言うように、ちゃんと見ていないから?
「どうしたら、いいの……」
だって、何も分からないんだもの。
僕は笹野くんが好きで、大好きで、それだけでいっぱいいっぱいだよ。
この間みたいに、また二人でいられると思ってた。ほんの数分間でもいいから、二人きりでいたかった。
楽しそうに廊下を歩いていく笹野くんたちを見ているとなんだか腹が立ってきた。
笹野くんは、ズルい。
笹野くんだって僕のこと、全然見てないでしょう?
こうやって苦しんでることは知らないに決まっている。そうだよ、知ってる方がおかしいもの。
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