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見てるよ。(14)
嘘だとバレてしまうから、足は動かせない。僕は手で笹野くんの胸元を叩いた。申し訳ないから下ろして欲しいとお願いする。
けれど彼は、全然余裕だと言ってふわりと笑った。
みんなも慌てる僕に「笹野は力あるから大丈夫」って、そう言ってから先に次の教室へと向かった。
「とりあえず、この椅子に座ってて」
教室に戻ると、笹野くんは僕を抱きかかえたまま近くにあった椅子を足で動かした。そこに僕を座らせ、自分が置いた教材はもちろん、廊下に散らばった僕の分まで拾って持って来てくれた。
それから机に置くと、僕の足下に膝を付いて座り、優しく足首に触れた。
「やっぱりまだ痛い?」
しっかりと視線が合う。こんな状況だけれど、何だかそれが嬉しかった。自分で驚くほどに大胆な行動をして、心配してくれる彼に嘘までついて。
でも、それでも、今は恥ずかしさよりも嬉しさの方が大きい。彼と、二人きりだ。この間みたいに、二人だけの時間。
「痛いなら保健室まで抱っこしていくけど。さすがにそうすると、他のクラスの前通る時、原田が恥ずかしいだろ?」
ううん。違う。やっぱりこの間とは違う。
今日のは僕が勝手に、僕のわがままで付き合わせているだけだ。
嘘ついて心配までさせて。
迷惑しかかけていない。
何が嬉しいだよ。僕は最低だ。
じわりと、涙が浮かんだ。
「保健室、行かなくていい……」
「え?」
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