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ゆっくりじゃあダメですか?(2)

「ただいま、」 「お邪魔します!」 藤川さんがきれいに靴を並べる姿をじっと見ながら、俺は玄関のドアを押さえた。 こういうところもきちんとしているなぁと、感心しながら。 彼が脱いだ靴の横に自分も並べると、先に入った彼に続いて俺も部屋に入った。 「あ、酒は冷やしてあるんで、買ってきたやつ飲み終わってもまだありますからね」 「おっ、ありがとうございます」 そう言って買ってきたものをテーブルに広げると、彼は俺の方へと少し近づいて座り直した。 「でもまた明日仕事ですから、今日はこれだけにしておきます」 「確かにそうですね」 藤川さんが距離を縮めたせいで、シャツがたまに擦れる。なぜか俺がすみませんと謝って離れれば、彼はイタズラな顔をして笑った。 くっ、とんだ小悪魔じゃあないか。 乾杯しましょうと、俺のビールの缶に自分のをコンっとぶつける彼から目を逸らし、ぐいぐい酒を流し込んだ。 彼と俺は職場は違うけれど同じアパートに住んでいて、しかも部屋は隣の隣でかなり近い。 朝はたいてい毎朝会うし、その度に駅までは一緒に歩いていく。 帰りの時間はバラバラだから、彼と今日みたいに会うことは、たまにしかないけれど。 それでも今日みたいにタイミングが合う日は、そのまま彼が俺の部屋に遊びにくるのだ。 彼とこういう関係になって、最初は純粋に嬉しかった。会社でのお互いの立場が似ていることから話も合うし、気の合う友人ができたと、そう思っていた。それなのに……。

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