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ゆっくりじゃあダメですか?(3)

「堤下さん」 「何ですか?」 「堤下さんの方が、俺より二つ年上じゃないですか、だから……」 せっかく離れたのに、彼は離れる前よりもっと俺の方に近づいてきた。ああもう、また頬の熱が上がる。 「タメ口で良いんですよ?藤川さんって、名前にさん付けもしなくていい。下の名前で呼んだり、とか……」 「いや、でも、たかが二つじゃあないですか」 「だけど俺、堤下さんともっと仲良くなりたいんです」 ダメですか? って、彼が指先で俺の肩から腕をつーっとなぞった。 そのまま手を重ねられ、指を絡められる。 ちょっと、待って。 今、何が起きてるんだ? 「藤川さん、」 「だから藤川さんじゃなくて、」 「……っ、」 「俺の名前、呼んでくださいよ。ね?」   “ね?”と、薄く開かれた口から、ちろりと舌が覗く。ほんのり朱色に頬を染めながら、その舌で唇を舐める姿が俺をそそる。 これは、本当にダメなやつだ。 「ちょ……っ、まだほんの少ししか飲んでないのに、どうしたんです?」 ほらほらお酒だって全然減ってないじゃあないですかって、ビール缶を振ってそうアピールした後、その場を誤魔化すように一気にビールを流し込んだ。 藤川さんはいつもなら、三本くらいすぐに飲んでしまうのに。 さすがにたくさん飲めば全然酔わないわけじゃあないけれど、変な酔い方をしているのを見たことはない。 「……今日は、数口で酔っちゃったんです。そんなことより、堤下さん……、俺の名前を呼んでください……」 ……おいおい、本当にどうしたって言うんだ。  

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