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ゆっくりじゃあダメですか?(10)
「智春さん、」
「見ないでっ、」
「顔、見たいです。ちゃんと見せて」
「……あ、」
お願いします、と藤川さんの手を掴む力を緩めれば、彼の肩の力も抜けた。
それから俯いていた顔を上げ、俺をじっと見つめる。
もう一度、きちんと伝えた方がいいな。
そして彼からも、返事をもらわなければ。
「智春さん、」
「はい、」
「好きです」
改めてまた言葉にすると、気持ちがさらに大きくなった。
こうやって俺のことで泣いたり、赤くなったりする彼がとても愛おしい。
大切にしたいと、そう思う。
「………俺も、好き、です」
呟かれたその言葉に、頬が緩んだ。
「嬉しいです、」
「お、俺だって、嬉しい……!」
「ははっ、智春さん可愛いですね」
「……っ、」
大胆なのか、控えめなのか、照れ屋さんなのか……知らないところの方が多い。
でも、両想いになれたのだから、お互いを知っていくのはゆっくりでいいだろう。
少しずつ、藤川さんの色んな面を知っていけたらいいな。
「康平さん、」
「ん?」
「両想いになったら、」
「なったら?」
「キス……するものじゃないんですか…?」
けど彼は、やっぱりそうはさせてくれない。
ゆっくりじゃあ、ダメなのかな。
くすくすと思わず笑った俺に、藤川さんは膨れてしまった。
「拗ねないで。目……閉じてください」
「……はい、」
俺は、柔らかな頬に優しく触れ、彼の額にキスを落とした。
「キスは、そこじゃないです」
「え?」
気に入らなさそうにまた膨れた彼を見て、ゆっくりじゃあダメだと、自分でもそう確信した。
END
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