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今、君に。(1-1)
「もうさ、無理だよ……。俺、耐えられない……」
自分のその言葉に、涙が頬を伝った。
楽しかった君との思い出が薄れ、今、俺の頭の中にある記憶は、親からの罵声と軽蔑の眼差しだけ。
心に深く突き刺さった刃は、抜かれることはなくさらに深いところへと差し込まれ、その傷口はそう簡単には閉じないだろう。
「ごめん……」
すがりついて泣く君を、抱きしめてやるほどの余裕は残っていなくて。
弱虫な俺は、ただ、自分を守ることで精一杯だった。
「好き、なのに……っ、」
「うん、」
「僕……、は、まだ、好き……なのに、」
「うん……、ごめん」
“俺だって好きだよ”
“これから先も、お前以上に好きになれる奴なんかいないって、そう言えるくらいに”
ぐっとこらえて、言いたい言葉を飲み込んだ。
君を抱きしめてしまわないように、閉じた手にも力を込める。
好きだから、君のことが大好きだから。
だからこそこうして、君を守ることもできないような弱虫な俺なんかじゃなくて、君を一番に想ってくれる違う人と、幸せになって欲しい。
俺には君を幸せにはできない。
「あ、つし……」
「しゅん……」
「僕は……っ」
「うん、」
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