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今、君に。(1-6)

「俺には、やっぱり春が必要なんだよ。春がいなきゃダメ。いつまで経っても頭ん中から消えてくれないんだ。何をしたって心も満たされない。最後に見た、泣き顔が頭から離れてくれない。それまでたくさん笑い合って来たのに、笑顔が霞んで、はっきりと覚えてるのはあの時の泣き顔だけなんだよ」 「……っ、」 「悔しかったよ。悪いことなんて何もしてないのに、どうしてって。こんな親なんかって、母さんたちのことをたくさん恨んだ。けどさ、母さんが俺を産んでくれなかったら、春には出会えなかったわけだし。そこは、感謝してる」 「あつし……っ、」 「だからこの感謝の気持ちが消える前に会いに来たんだよ」 これでもまだ、一応は家族だから。 感謝の気持ちだって、残っているから。 子どもとして会いに来て、これからのことをきちんと話そうと思ったんだ。 今まで抱えてきた想いとか、全部をぶつけて、そんなことをしてもスッキリはしないけど、それでも、そうすべきだと思ったから会いに来た。 「ねぇ母さん、だからあの言葉を取り消して、」 俺に言った言葉、覚えてるよな? 「“産まなきゃ良かった”って言葉をさ、」 いつ、どこで、どんな顔で、どんな声でその言葉を言われたのか。 俺はね、はっきりと覚えている。 「そして謝って。春と俺の関係を“汚らわしい”って言ったこと。俺も謝るからさ、」 「あつし、」 「……こんな息子でごめんな」

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