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今、君に。(1-7)

言いたいことを一通り言って、それから黙って母さんを見つめれば、少しずつ肩の震えが大きくなって、声を上げて泣きだした。 「ごめ、んなさい、ごめん……な、さい……」 嗚咽に混じって聞こえる謝罪の言葉。 自分が俺に出て行くように言ったくせに、顔も見たくないと、帰ってくるなと散々怒鳴り散らしたくせに。 どうして今になって、そんなふうに泣くんだよ。 「母さん……」 俺は思わず、母さんに手を伸ばした。 “汚い!” “何でこんな裏切り…” “あんたなんか…” “────────!” ふと蘇るあの時の記憶に、母さんの言葉。 泣き叫んでひたすら謝る春。 怖くなって一瞬固まったせいで、伸ばしかけた手を戻すのが遅れ、母さんにその手を掴まれた。 「あ、つし、……母さんね、」 “─────────” 声が小さくて、言っていることが聞こえない。 手を離して欲しいのと、でもどうしてかそうして欲しくない自分もいて。 久しぶりの母親の温もりに戸惑って、ひどく気分が悪い。 「母さん、」 「あつし、母さんね、あれから……」 大粒の涙が目から溢れ、震える声は相変わらず小さくて。 何を言うつもりなのかと、母の声に集中しようと耳を澄ました時、ガラガラーっと、玄関のドアが開けられた音がした。 「おばさん、こんにちは」 「……っ、」 その声に母さんの手をためらいなく振り払い、俺は玄関まで走った。 「今日の夕食は、どうしよ……、っ、あつ、し……?」 「……春、ど……して、」 玄関のドアを開けて入って来たのは、俺がひどい別れ方をして、でも忘れられなくて、ずっと思い続けてきた大切な人だった。

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