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今、君に。(1-8)

***** ここ五年ほど、毎月一度だけ、敦の実家に通っている。 理由にはならないかもしれないけれど、敦の父親が死んで、おばさんが一人になったから。 敦も帰って来ないし、この家に一人きりは寂しいだろうと、そう思ったから。 憎らしかったよ、何もかも。 自分の親だって、敦の親だって、敦本人だって。 でも、もともとノンケだった敦に言い寄ったのは僕だから。敦を、巻き込んでしまったのは僕だから。 敦が家を出た後も、僕は一人、謝罪しにこの家に通ったんだ。時間の許すかぎり、何度も何度も。 『敦を許してやってください』 『僕が巻き込んだんです』 『敦は何も悪くありません』 『僕のことは許さなくて構いません』 『でも敦だけは……』 帰れと言われても、ひどい言葉を投げられても、それでも僕は通い続けた。 そのうちおばさんが一人になって、ある日言われたんだ。 『あの子は私たちが追い出したから、もういないのに、』 『あなたは何度も家に来て、謝って』 『……そんなに、敦のこと大切に思ってくれていたのね』 『ごめん、なさ、いね』 たくさん傷つくことを言われ、されてきたけど。 でも、おばさんはおばさんで敦を守りたたかっただけなんだって。 結局は誰も悪くない、悪いのはこの世界だって。 そんなキレイ事を考えたら、何かがすとんと落ちて来て、僕の中できれいにはまった。

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