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今、君に。(2-1)

  玄関先で固まる春を、俺は思わず抱きしめてしまった。 相変わらず細くて小さい体は、あの頃から何も変わっていない。 ずっと忘れられなかった春の温もりに、目頭が熱くなる。 春は戸惑った様子だったけれど、しばらくすると何も言わずに抱きしめ返してくれた。 背中に回された手は、やっぱり優しくて。 掠れた声で名前を囁けば、春はこくりと頷いた。 母さんは抱きしめ合う俺たちの後ろで、声を押し殺すようにして泣いたままで。 俺は、時々漏れる母さんの嗚咽を聞きながら、さっき言いかけたことは春のことだったのかと、そんなことをぼんやりと考えた。 それからその後、母さんと春から俺がいない間にあったことを色々と聞いた。 俺は春を捨てたのに。それでもずっと気にかけてこの家に謝りに来続けてくれたこと、母さんが一人になって寂しくないように毎月この家に通ってくれていたこと、知らないことがたくさんありすぎて、俺は申し訳なさやら何やらで言葉が出なかった。 そして、散々言ったせいで今更戻って来て欲しいと言えなかった母さんの気持ちを考えると、うまく言えない思いで胸がいっぱいになった。 一度、思い切りぶつかれば良かったのかもしれない。こんなに長い間離れていないで、最後の機会を待つこともしないで。 俺は現実から逃げているだけだったんだ。あの頃からずっと、自分のことしか考えていなかったんだね。

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