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今、君に。(2-3)

もし今、春が幸せだと言うのなら、この気持ちを伝えることはしない。 そして、春を母さんから解放してやらないと。もう大丈夫、これからは俺が帰るようにするって。 母さんの顔を見続けることになれば、いつまで経ってもあの時のことを春は忘れることができないだろうから。 「なぁ、春」 「なぁに?」 「すごく勝手で無責任なことを聞くけど」 「うん?」 「いい人、見つかった……?」 ベッドの上に座って、少しの距離を保ったまま、春にそう尋ねた。 俺から視線を逸らし、目を伏せた春の揺れる睫毛を見て、今更ながらせめて場所を変えれば良かったと後悔が襲う。 俺たちが初めてキスをして、そして関係がバレてしまった部屋の、このベッドで。 いくら二人きりになれる場所がなかったからって、これは余りにも酷すぎる。 だけど、そんなことを気にしているのは俺だけなのかな? 春は、それをもう気にすることもないくらいに、思い出として受け入れられた? 再会してから、こうしてこの部屋で話をしているけど、たったの一言も俺を責めなかったよね。そして、あの頃と変わらない笑顔を俺に向けてくれてる。 ねぇ、春。君は今、何を考えてる? 俺のことを、どう想っているの。 もし君が、俺のしたひどいことを過去の思い出として、記憶として受け入れて、今は前に進めているのなら、それは春にとっても良い事だと思う。 過去から救い出してくれた何かがあるってことだろう? けれど、ひどく自分勝手な俺にとって、それは……。

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