215 / 226
ねぇ、こっち向いてよ。(8)
拗ねた藍が、可愛い唇を突き出す。いつもならその唇をつついて遊ぶけれど、今回は怒らせたくないから。その気持ちを押さえて、藍の目の前でチケットを揺らす。
「行きますか?」
「うっ、」
悩んでいるけれど、藍の目は揺れるチケットを追っている。もう一押しかな。
「らーんちゃん、」
「……やっぱり卑怯だ」
「だってこうでもしなきゃ、藍は俺とデートしてくれないでしょ?」
俺は大好きな藍と一緒にいられるし、藍は見たかった映画を見られるんだ。
お互いに取って良いことだらけじゃないか。
「藍ちゃん、」
一緒に行こうよと、もう一度そう伝えて頭を撫でると、藍は相変わらず唇を突き出したまま、そのチケットを手に取った。
「……で、デートじゃ、ないからな!」
ねぇ、藍ちゃん。
抵抗していたのは、俺とのデートだって意識してくれていたからなの?
もう、本当に可愛いんだから。自分でも意図しないうちに、俺のこと意識してるって、そう言ってしまってるじゃん。
「うんうん、もうデートじゃなくても何でもいいからさ。ね、行くでしょ?」
「……うん、」
「俺、土日も藍に会ってないと死にそうになる」
「……っ、」
藍の顔をのぞき込めば、案の定藍の頬は真っ赤になっていて。
俺のこと、好きだと思うんだけどなぁ。いったい何が、藍を引き留めているのやら。
そっと手を伸ばし、頬に触れてみた。
「らーんちゃん、デート、すっごく嬉しいよ」
「……っ、だから!」
「俺にとってはデートなの」
「もう、勝手にしろよ」
ため息をつく藍を見て、俺の頬が緩む。
どんな態度も感情も表情も、俺に向けられているものなら何だって特別だもの。
ああ、明日が楽しみだ。
ともだちにシェアしよう!