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ねぇ、こっち向いてよ。(8)

拗ねた藍が、可愛い唇を突き出す。いつもならその唇をつついて遊ぶけれど、今回は怒らせたくないから。その気持ちを押さえて、藍の目の前でチケットを揺らす。 「行きますか?」 「うっ、」 悩んでいるけれど、藍の目は揺れるチケットを追っている。もう一押しかな。 「らーんちゃん、」 「……やっぱり卑怯だ」 「だってこうでもしなきゃ、藍は俺とデートしてくれないでしょ?」 俺は大好きな藍と一緒にいられるし、藍は見たかった映画を見られるんだ。 お互いに取って良いことだらけじゃないか。   「藍ちゃん、」 一緒に行こうよと、もう一度そう伝えて頭を撫でると、藍は相変わらず唇を突き出したまま、そのチケットを手に取った。 「……で、デートじゃ、ないからな!」  ねぇ、藍ちゃん。 抵抗していたのは、俺とのデートだって意識してくれていたからなの? もう、本当に可愛いんだから。自分でも意図しないうちに、俺のこと意識してるって、そう言ってしまってるじゃん。 「うんうん、もうデートじゃなくても何でもいいからさ。ね、行くでしょ?」 「……うん、」 「俺、土日も藍に会ってないと死にそうになる」 「……っ、」 藍の顔をのぞき込めば、案の定藍の頬は真っ赤になっていて。 俺のこと、好きだと思うんだけどなぁ。いったい何が、藍を引き留めているのやら。 そっと手を伸ばし、頬に触れてみた。 「らーんちゃん、デート、すっごく嬉しいよ」 「……っ、だから!」 「俺にとってはデートなの」 「もう、勝手にしろよ」 ため息をつく藍を見て、俺の頬が緩む。 どんな態度も感情も表情も、俺に向けられているものなら何だって特別だもの。 ああ、明日が楽しみだ。

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