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ねぇ、こっち向いてよ。(9)

***** 待ち合わせは、駅前に十時と言われたのに、どうしてか三十分も前に到着してしまった。 こんなに早く着いてしまうなんて、今日の約束を楽しみにしていたと、悔しいけど認めざるをえない。 「……っ、」 ううん、やっぱり違う。別に楽しみにしてたわけじゃない。 全部、大和が悪いんだ。俺は違うって言ってるのに、何度も何度もデートだなんて言うから。 そのせいで無駄に意識して、だからこんなに早く着いてしまったんだ。 本人がいないのに、そう考えたら何だか腹が立ってくる。いてもいなくても、俺、大和のことばっかり考えてるじゃん。 「……あっ、」     そんなことを思っていると、大切なことを思いついた。 こんなに早く着いていることが、大和にバレてしまったら、何を言われるか分からない。俺のこと、またいつもみたいにからかって楽しむはずだ。 それはできるだけ避けたい。 俺は、目印にしていた銅像から少し離れたところに隠れた。 大和が来たのを確認してから、あたかも今来たかのように出て行ってやろうって。 それなのに、隠れてすぐに誰かに肩を叩かれ、不思議に思って振り返れば、後ろには大和がいた。 「な、んで」 「藍こそ、何してるの?」 「……っ、」 何してるの? って聞かれても、大和から隠れていた、としか答えようがないから。 何も言い訳が見つからず、この場を誤魔化すことはできない。 大和はそんな俺を見て、ふはっと笑った。

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