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ねぇ、こっち向いてよ。(11)
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飲み物とポップコーンを買って入ったけれど、藍はそれらには手を伸ばすことなく、画面を食いつくようにして見ていた。
途中の恋人が亡くなるシーンでは、まるで自分の最愛の人を亡くしたかのように顔をくしゃくしゃにして泣いていて。
そんな藍を、今までよりもっと愛しく感じた。
映画を見終わって外に出ると、太陽の光のせいで、藍の泣いて赤くなった目元がはっきりと見える。
たくさん泣いたんだねって、少しからかいたい気分になったけれど、そんなことをしてはダメだと、さすがに分かっているから。
俺は何も言わずに指先で藍の目元に触れ、それから頭を撫でた。
「……っ、」
目だけじゃなくて、藍の頬まで赤くなる。
今日は赤くなってばっかりだね。
それに、いつもなら抵抗するはずなのに、藍は大人しく俺に頭を触らせている。
なんだか今日はいつもよりいい感じ?
でも、そんなことを思いながら調子に乗って触っていたら、やっぱり怒られてしまった。
映画館を出てしばらく歩いていると、可愛らしいパン屋を見つけた。レンガ作りで、大きな窓からは中がきれいに見渡せる。清潔感が溢れていて、中のパンもおいしそう。
それを見て、藍の目が輝いた。
食べたそうな顔をして、並べられたパンを窓から見ている。
パン、好きなのかな?
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