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ねぇ、こっち向いてよ。(12)

お昼はファミレスで、なんて思っていたけれど、藍が食べたいのならここでパンを買っても良いかもしれない。 確かこの先には公園があるし、そこのベンチにでも座って食べるのも楽しそうだ。 「藍、お昼はここのパンにしよっか」 「え……、いいの?」 「うん」 「……じゃあ、パンがいい」 珍しく笑顔の藍に驚きながら、俺たちはパン屋に入った。 「うーん、どれにしよう」 おいしそうなパンを前にして、藍が小さく唸る。どうやら藍は甘党らしく、クリームパン、ミルクフランス、シュガートースト、アップルパイの前でずっとうろうろしている。藍ちゃんと甘いパン。……うん、すごく似合う。 それにこの可愛らしい雰囲気の店と、藍の雰囲気がぴったりすぎて。 パンを選んでいるだけの藍を、数時間見ていても飽きなさそうと、そんなことを考えた。 「甘いパンが食べたいんだけど、でもどれもおいしそうで……」 「じゃあさ、藍ちゃんの好きなもの全部選んじゃえば?」 「でも、そうしたらすごい数になっちゃう」     指を折り、食べたいパンの数を数える藍。 片手の指が全て折れてしまい、困ったように俺を見た。 「たくさん買おうよ。そして俺と全部を半分にすればいいじゃん。ね?」 俺はどのパンでもいいから、と伝えれば、最初は遠慮していた藍もゆっくりと頷いた。 俺は、藍が喜ぶ顔が見られたら何だっていいんだから。 へへっと、嬉しそうに笑った藍がトレイにパンを乗せていく。 その可愛い姿をぼんやりと見ていた時、誰かに肩を叩かれた。

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