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ねぇ、こっち向いてよ。(16)

***** 目の前で急に泣き出す藍に戸惑っていると、藍が何かを呟いた。けれど、うまく聞き取れない。 今、何て言ったの? 「藍……?」 いつもは見ないその藍の姿に、俺まで泣きそうになる。どうしてあげれば良いんだろう。  「藍ちゃん、泣かないで」 俺は肩を震わせて泣く藍を、そっと抱きしめた。背中をトントンとリズム良く叩けば、藍は俺の背中に手を回した。持っていたパンが落ちてしまったけれど、そんなことは気にしないで、俺の服を掴んでくる。 「や、まと、」 「うん、」 ねぇ、藍ちゃん。本当にどうしたの? 俺は藍の背中に回していた手を戻し、今度はその、涙で濡れた頬を包み込んだ。 親指の腹で優しく目尻に触れるけれど、小さく震える睫毛の下にはまた、大粒の涙が溜まり、ぽろぽろとこぼれていく。 「ごめ、ん、」 「何で謝るの? 藍は何もしてないでしょ?」 「……ひっ、ぅ、俺、可愛く、ない」 「え?」 「一緒に、いても、楽しくな、い」 「藍?」 どうして急に、そんなことを考え始めちゃったの? 藍は可愛いし、一緒にいて楽しいよ。 それはずっとそうやって藍に伝えてきたじゃないか。 今さらもう変わらないよ。俺は藍がとても好きだから。 「藍ちゃん、」 どうしたら伝わるんだろうね。 俺には正しい伝え方が分からないよ。どんなふうに伝えれば、藍ちゃんは信じてくれる? 安心、してくれる? 俺は、泣いている藍のおでこに軽くキスを落とし、それから可愛い唇を塞いだ。 合わせるようにして触れた後、少しずらして、藍の上唇を優しく吸う。

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