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ねぇ、こっち向いてよ。(16)
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目の前で急に泣き出す藍に戸惑っていると、藍が何かを呟いた。けれど、うまく聞き取れない。
今、何て言ったの?
「藍……?」
いつもは見ないその藍の姿に、俺まで泣きそうになる。どうしてあげれば良いんだろう。
「藍ちゃん、泣かないで」
俺は肩を震わせて泣く藍を、そっと抱きしめた。背中をトントンとリズム良く叩けば、藍は俺の背中に手を回した。持っていたパンが落ちてしまったけれど、そんなことは気にしないで、俺の服を掴んでくる。
「や、まと、」
「うん、」
ねぇ、藍ちゃん。本当にどうしたの?
俺は藍の背中に回していた手を戻し、今度はその、涙で濡れた頬を包み込んだ。
親指の腹で優しく目尻に触れるけれど、小さく震える睫毛の下にはまた、大粒の涙が溜まり、ぽろぽろとこぼれていく。
「ごめ、ん、」
「何で謝るの? 藍は何もしてないでしょ?」
「……ひっ、ぅ、俺、可愛く、ない」
「え?」
「一緒に、いても、楽しくな、い」
「藍?」
どうして急に、そんなことを考え始めちゃったの?
藍は可愛いし、一緒にいて楽しいよ。
それはずっとそうやって藍に伝えてきたじゃないか。
今さらもう変わらないよ。俺は藍がとても好きだから。
「藍ちゃん、」
どうしたら伝わるんだろうね。
俺には正しい伝え方が分からないよ。どんなふうに伝えれば、藍ちゃんは信じてくれる?
安心、してくれる?
俺は、泣いている藍のおでこに軽くキスを落とし、それから可愛い唇を塞いだ。
合わせるようにして触れた後、少しずらして、藍の上唇を優しく吸う。
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