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第7話

先程のようなことがあっても、自分以外は入るなときつくリュークから言われている為、暫くのち朝食の片付けにおずおずとノックをして扉の前で待機する老執事が、いつも通り魔力で開いた扉から部屋に入ると、いつもはリュークが座っている椅子にブランが座らされていた。 昨夜、リュークの腕の中で意識なく抱えられている人物がブランだとわかった時から、その顔を再び見たいという想いを強く持っていた老執事は、これはリュークの仕掛けた罠だと心のどこかでは認識していたものの、懐かしさも相まって我慢できず、椅子の側に駆け寄るように近寄った。そして老執事がブランの顔を覗き込んだ瞬間、非情にもそれはリュークの顔に変わった。 「ひぃっ!!!」 腰が抜けた老執事がその場にへたりこみ、それでも一刻も早くこの部屋から立ち去ろうと後ずさる。 リュークは椅子から立ち上がるとそれをゆっくりと追いかけた。 所詮は逃げることはできないとわかっていても、あまりの恐怖に脳がその情報を処理できず、老執事は床を四つん這いになって這いずるようにして、扉に向かった。 「あれだけのことがあってなお、ブランに近付くとはな。お前とブランの関わりを私がもらおう。分かっているだろうが、お前に抗う術はない。辛い思いをするか、さっさと差し出すか…どうする?」 そのぞっとするような命令にも、パニックとなっている老執事の頭では考える事もできず、ただただうわ言のように許して下さい、助けて下さいと懇願しながら扉に向かって履いずり続ける。 しかしとうとうリュークが老執事に追いつき、その震える肩を掴もうとした時、リュークにしか開けない筈の部屋の扉がずずずずっと開き出した。 リュークが老執事から離れ、扉に対峙するように立ち、杖を持ち呼吸を整える。 すでに流れてくる魔力にそれが誰だか分かったリュークの顔が青ざめ強張っていった。  ついに開ききった扉からは屈強な体格の男性が、しかしこの現状には似つかわしくないほどのニコニコとした笑顔で入って来ると、扉の側でガタガタと震えている老執事に近付いた。 「大分、やられたようだな。大丈夫か?」 そう言って熊のような大きな手で老執事の腕を持ち立たせると。指を鳴らした。 するとその場に今までなかった黒い革張りの高級そうなソファが現れ、それに老執事を座らせる。 「ゆっくりと呼吸をするんだ。そう、そうだ。」 そう言って、その体格からは思いもかけない程に優しく、静かに背中をさする。 段々と息が整い落ち着いてきた老執事を見て、男性が今度はリュークに顔を向けた。 「なかなか激しくやっているようだが、こいつは私のモノでもあるという事を忘れるな。」 そう言って老執事を指さす。 「っ…。」 リュークはその怒りの表情を崩すことなくそっぽを向いた。 「まるで子供だな。あの冷静沈着なお前が力でしか物事に対処できないとは。そんなにもブランはお前を惑わしたか?」 ブランの名前が出たことで、リュークの心が再び騒めき出した。 「はっ!お前、その顔凄いな。そんなに感情を露わにするお前の顔を見るのは初めてだ。」 「…何の、用ですか?」 リュークが不機嫌な声で尋ねた。 「ブラン…いや、ラーマが帰ってきたと聞いたのでな…おいおい、そんなに睨むな。」 「やはり、貴方がブランにあの術をかけていたんですね。」 「あぁ、あれか。そうだ、ラーマの為にな。」 「ブランの為?!」 「そうだ。しかし、まさかあの術を解いてここから脱出するとは思いもしなかったがな。さすがにラーマだ。」 そう言ってうんうんと頷く男性にリュークがイライラとしながら抗議した。 「ブランは今は私のモノです。貴方にラーマと呼ばれたくない。」 「ふ…なかなかな事を言うじゃないか。だが己の立場を弁えろ!」 そう言うとソファから立ち上がり、手を下に向けてぐっと押し付けるような仕草をした。 「くぅっ…!」 リュークはまるで巨大な岩を乗っけられたかのような重さを感じ、それに耐えかねた体が床に押し付けられた。 :男性はそれを静かに見ながらリュークに近寄ると、杖を握っている手をその足でぐいっと力を入れつつ(にじ)りながら踏みつける。 「ぐぁっ!」 痛みに我慢できず手が開くと、リュークの手に握られていた杖がゆっくりと男性の手の方に浮かび上がった。それをパシッと受け取ると、老執事に投げ渡した。 「しばらくそれを預かっていろ。」 老執事は頷くと、投げ渡されたリュークの杖をギュウっと両腕で抱きしめた。

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