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第8話
「まったく。久しぶりに会ったのだから、その顔をじっくりと見せてみろ。」
そう言って男はリュークの手を踏んだままでしゃがむと、リュークの顎を手でグイっと自分の方に向けて持ち上げた。
「…っ!」
リュークがその手を振り払うように顔を振ろうとしたが、熊のような頑強な手でつかまれた顎はびくともしない。
それでも何とか動こうとしてもがいてみるものの、体にかかる圧力に屈するほかなかったリュークは、唯一怒りに満ちた目で男を睨み続けることによって、その抵抗の意を表した。
「いい目をするようになったもんだ。しかし、それが主人への態度としてはいかがなものか、とは思うがな。」
ふっと笑うと、あごから手を外して立ち上がり、リュークがいつも座っている椅子に向かいドカッと座った。
「来い。」
太く厳しい声で男がリュークに命令すると、リュークの体にかかっていた圧力がすぅっとなくなった。
リュークは静かに立ち上がるとわざとらしいほどにゆっくりと身支度を整えていく。
男はそれをしばらくはじっと見つめていたが、なかなか終わらない身支度に少しイラついたような声で再びリュークを呼ぶ。
「さっさとここに来い。」
老執事はそのやり取りを見ながら、どうにも居心地の悪い思いで、しかし離れることもできずに、リュークの杖を抱きしめるようにしてソファに息を殺して座り続けていた。
じっくりと時間をかけて身支度を整えたリュークは、そんな老執事を視界に入れつつゆっくりと男に向かって歩き出す。
しかし瞬間、その踵を返すと一気に老執事の手の中にある杖に向かって突進した。
驚いた老執事が杖を投げ捨てるようにして、ソファから立ち上がり逃げ出す。
その杖をリュークがあと少しで自分の手に掴もうとした時、熱い塊がその背中を貫いた。
衝撃で吹き飛んだ体は、部屋の壁にイヤというほど打ち付けられ、リュークはそのまま意識を失った。
「やれやれ、とんだやんちゃ坊主になったもんだ。さすがにこれでは仕方ないか…。」
そう言って軽くため息をついた男が、リュークに向けた杖を下すと自分の服の中にしまった。椅子から立ち上がってリュークの側に向かい、その体を片腕でひょいっと抱き上げると自分の肩に乗せ、ブランの寝かされている部屋に向かう。
その途中でソファの横を通り過ぎる時、くいっと指を曲げると、落ちていたリュークの杖が浮かび上がり、男が再びそれを掴み取った。
その杖も自分の服の中にしまい込むと、その少し離れたところでへたり込んでいる老執事に向かって声をかけた。
「おい、立ち上がれそうならついて来い。」
目の前で起きた諸々に呆然としていた老執事は男の声にはじかれるように立ち上がると、ささっと服をはたき髪を整え、その後ろから足早に部屋の中に入って行った。
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