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第11話
リュークが男に目を向けたままで人差し指をくいっと曲げると男が投げ捨てた杖が浮かび上がった。それを手に取ると、すかさずその杖先を男に向ける。
「ブランの側から離れろ!」
男は仕方ないなというように首を振り、おどけるように両腕を上げてベッドから離れると、扉の側に向かった。
扉に背中をもたれかけさせ、両腕を組むと
「それをこちらに渡してもらおうか?」
男が老執事を指でさす。
「お前の言う通りに動いてやっているんだから、そろそろ返してくれてもいいんじゃないか?」
「いや、まだだ。」
リュークはそう言うと今度は老執事に杖を向けた。
「おい、いい加減にしろ!」
「うるさい!ようやくたどり着いた、運命だと思った。ブランさえ側にいてくれれば、この日々に立ち向かう事ができる。この運命すら乗り越えられる!そう思った。それなのに…ブランは一体何者なんだ?」
悲痛なリュークの叫びが部屋に響く。
それを男は一笑に付した。
「まるで悲劇のヒロインだな。」
「なっ…!」
リュークの反論を無視して男が続ける。
「そうだろ?自らの運命をブランさえいれば乗り越えられる、だと?はぁ⁈誰がいようがいまいが、自分の運命は自分で切り開いていくもんだ。そんな事すらできないやつにブランはついて行きはしないし、たとえついて行こうとしても、俺がそれをさせはしない。さっさとそいつと、その首の珠を渡せ。さもなければ、今この場で…。」
そう言って男は自分の杖をリュークに向けた。
「こいつを見殺しにする気か⁈」
「お前にはできんよ。できるわけがない。そういう契約だからな。」
リュークの腕が一瞬びくっと動くと、力が抜けるようにそのまま腕を下ろす。杖先が床に向くと、それを確認した男が老執事に向かって手を差し伸べた。するとその体がふわふわと男の方へと向かい出す。リュークは何をするでもなく、男の元へ向かう老執事をじっと見続けていた。
男が老執事を腕に受け取ると、部屋の隅に置いてあるソファに寝かせ、口づけをする。
じっくりと時間をかけた口づけをして唇を離すと老執事の腕が男の首に巻かれ、グイっと力が籠められる。
そのまま再び二人は今度は濃厚な口づけを交わしだした。
その間にリュークは男達に気がつかれないように静かにブランの元へ行くと、そっと珠を首から外し呪文を唱えて珠を光に変えた。
光がブランに吸い込まれると、ブランの体が再びぐらあっと起き上がる。
それを両腕に抱きかかえると、リュークはこの場から去る呪文を唱えだした。
しかし、途中でその詠唱をやめ、静かにブランをベッドに座らせた。
「ブラン、申し訳ありませんでした。何とかあなただけはこの城から、この国から出したかったが、私にはあの人に太刀打ちできるだけの力はありません。でも、ほんの少しのチャンスがあれば、あの村にもう一度お戻りください。あそこはあの方にはバレていません。
村人にもあなたに非がない事は分からせてあります。皆があなたを待っています。ブラン、あなたの人生を狂わせてしまった事をどうぞお許し下さい。そしてもし叶うならどうか、出来る事なら私を…あなたが名付けたリュークと言う私の事を忘れずにいて下さい。」
そう言って、ブランの頬に手を添えると唇を合わせた。
名残惜しそうに唇を離すが、再び唇を合わせる。
ブランの肩に手を置いて、自分の気持ちと共にその身体を引き離すと男の方に体を向けた。
それをにやにやと嫌な笑いを浮かべて片腕に老執事の体を抱きながら見ている男に、リュークが怒りの眼差しを向けた。
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