16 / 25

第16話

「くぅっ!」 ブランを抱きしめたリュークの口から呻き声が漏れ、一瞬その手が外れた。 しかし再びブランを力一杯抱きしめる。 それでも、ブランはただじっと男のことを見続けていた。 男の顔は爛れ、今にも火が吹き出しそうなくらい真っ赤になっている。 「ブラン、やめてくだ…さい。ブラン、もう…もうやめて…うあぁぁっ!」 ブランから放出されている魔力の熱さに耐えられず、叫びながらもリュークはブランを抱きしめ続けた。 「ブラン…もう…ブランぁぁぁあああっ!」 老執事がびくっと体を震わせるくらいの絶叫が部屋の中に轟いた。 リュークの手から力が抜け、ブランの体に沿ってずるずると崩れ落ちていく。 「リューク!」 ブランもリュークの絶叫に意識を取り戻し、ベッドに横たわるリュークの頭をかき抱いた。 「リューク!私のせいで…リューク、リューク!」 その声が耳に届いたのか、リュークがうっすらと目を開けて、ブランの顔に手を添えた。 「ブラン…良かった。」 「リューク!何であんなことを!」 「あなたは優しい人です。意識がなかったとしてもあのように人を傷つければ、それを苦に悩み辛い思いをするでしょ?私はそういう事からあなたを守りたいんです。あなたを幸せにしたいんです。あなたにはずっと笑顔でいてもらいたい。苦しむ姿は見たくない。」 「だからって、こんなになるまでっ!」 ブランの目から涙がこぼれ、リュークの頬にその温もりが感じられた。 「ブランの涙、暖かい。でも泣かないでください。せっかく私が守ったその笑顔を見せてください。」 ブランが顔に添えられたリュークの手に自分の手を重ねると、まるで暖かな太陽のような笑顔を見せた。 「うぅっ…」 しかしその一瞬後、再びブランは苦痛の呻き声を上げるとパタンと倒れ意識を失った。 「ブラン!」 リュークは何とか上半身を起こすとリュークの体を揺すった。 しかし、反応はない。 「もう、時間切れかもしれない。」 男が老執事の手当てを手で制すとリュークのそばに歩み寄ってきた。 リュークがブランを後ろに隠すようにして、片足立ちになる。 それを見た男が、ハハっと笑いながら、 「もうお前の邪魔はしないよ。助けてもらった恩もあるし、何よりブランがお前にぞっこんだ。それを引き離すような真似はしない。」 「あぁ…。」 リュークは男の言葉に緊張感をときつつ、ブランの顔を心配そうに見つめた。 そんなリュークを見ていた男がおもむろに口を開いた。 「お前に昔話をしてやろう。昔、ある男が数人の仲間と旅をしていた。そのモノたちに共通していたのは、普通の人間にはない魔力を持っていたということだ。村々に立ち寄っては、その力で悩み事を解決し、食べ物や小銭を稼いで旅を続けていた。 ところで、人というのは自分達にない力に初めは好奇心を持って近付いてくるが、しばらくするとそれを怖がったり、忌み嫌うようになる。 ある村にいた時、天候の悪さからしばらくその村に留まる事になったのだが、その間に村人の間である病が流行した。それが何故かその旅人の魔力による仕業だと噂になり、その一行が泊まっていた家が焼かれ、仲間の内の数人が火に焼かれて死んだ。また、逃げ遅れた数人は村人の手によって殺された。何とか逃げ出した仲間も自分達の力によって起こった現実に悲観し、全ての魔力をその男に託し、自殺した。 力を託された男は何とか人の目の届かない場所を見つけ出すと、そこに自分達の世界を作り始めた。 試行錯誤の末、男は仲間の魔力を自分の精と合わせる事で、新しい仲間を作り出す事にも成功した。 そうして少しずつ仲間を増やし、自分達の世界を作り出した男は、彼の作り出した魔力使いの間で統治の王と呼ばれることになった。 しかし、彼はそのような身分をきらい、生命を作り出す事にも疲れ、ある時、自分の代わりになる男を作り出すと、この世からその身を消し去ろうとした。それに気がついた彼の身代わりが、彼の精神を手中に収めることで、彼の命をこの世に留まらせていた。 しかしある日、彼の姿は城から消えた。何百年もの間、その行方はわからなかったが、身代わりが持つ彼の精神が消えないことでその身が生きているという証となっていた。そして突然、何の前触れもなくある男の腕に抱かれ、王は城に帰還した。めでたし、めでたし…と、まぁ、そういうことだ。」 しばらくリュークは何もいうことができず、ただ、自分の腕の中で苦痛に歪んだブランの顔を見つめ続けていた。

ともだちにシェアしよう!