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第2話

 それから少しのやり取りがあり、結果的に朱島はその男、タイチと付き合うことにした。 「それヤバいんじゃないのか?」  朱島の数少ない友人は、逢うたびに相手を変えている朱島の性癖に少しだけ釘を刺した。「ヤバいと思ったら手を引くよ。大人なんだから、それぐらいわかる」 「お前はどこか危ういから、忠告してやってるんだ。気をつけろよ?」 「うん」  若干、上からに聞こえるものの、そう言った友人は、朱島が性癖をオープンにする前からの付き合いだったから、ありがたくその言葉を受け取った。  どころか、「きみ……危ないって言われてるよ、タイチ」と、その日、待ち合わせ場所にきた彼に向かって言ってしまうあたり、自分も人が悪いなと思う朱島だった。 「気をつけます」  タイチは的外れにそんな返答をして、朱島の隣りにおさまった。本気なのか浮気なのか、それとも天然なのか、微妙なところだった。 「それで、朱島さん、どこに行きますか?」 「銀座の画廊で同業者が面白い催し物をしてるんだ。私は半分、仕事だけど、きみ、そういうの、興味ない?」 「朱島さんの関係? なら興味あります」  タイチは目を煌めかせて頷いた。朱島の教育の賜物……と言いたいところだが、空気を読むことに関しては、タイチほど上手い男はいなかった。  地下鉄丸ノ内線に乗り換えて、銀座で降りると大通りを数回折れて、入り組んだ裏道に小さな画廊がある。入り口で記帳をして中へ入ると、仄かに暗転した中を、イルミネーションの光が踊っていた。様々な生き物の絵が、空間に展示されることで多彩な臨場感を持つ。この空間展示を仕掛けたのは、デジタルアート集団「CHICA」という平均年齢二十五歳の若者たちだ。代表取締役の秋月井周という男を、朱島が発掘し、推薦した。中でも「CHICA」の社内でグラフィックを担当している室生朋は、作品だけでなく本人の性格にも、惹かれるものが多分にある。  しばらく展示を巡回し、休憩スペースにいた画廊のオーナーに挨拶をした。タイチは付かず離れず後ろをついてくる。人混みに紛れてしまうと発揮する特技のせいで、誰も朱島には声をかけるのに、傍のタイチには目もくれない。  不思議な男だ、と朱島は思った。朱島が聞かない限り、個人情報を喋らない。もっとも、重要なのはデータではなく、彼が興味を引く存在かどうか、朱島が魅せられるかどうかだと思っていると、不意にスーツの袖を引っ張られた。 「タイチ……?」 「朱島さん、何か上の空」  初対面の時も思ったが、暗闇で怪しく光る双眸は悪くない衝動を朱島に抱かせる。 「失礼、きみのことを考えてた」  朱島はそう話し、婉然と笑むと、出口へとタイチを促した。告白しても、タイチは特に表情を変えない。朱島は予測から外れる反応が面白くて、ついかまってしまいたくなった。

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