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第3話
朱島は家に、タイチを連れて行った。昼を挟んで、一件、仕事の電話があり、対応すると気持ちが沈んだためだ。遅い昼食にバゲットを買って帰り、生ハムと卵とサラダめいたものを出すと、タイチはそれを食した。
「……きみは食に執着しない性質だね」
「どうしてわかりますか?」
「食べ方を見ていればわかる。乗り出したり、満たされない素振りを見せないから」
「俺も執着はします」
「そう?」
タイチは少しの間、気持ちを言葉にしようと、手にしたバゲットを見ていた。
「俺は、少し他人と執着の仕方が違うようです」
「どう違うのかな?」
「自分ではよくわかりませんが……」
再び熟考した末に、ショートケーキのイチゴが好きです、と言うに似た口調でタイチは言った。
「俺のことを知る人は、そう言います」
これは朱島を激昂させた。内心に火が灯るのを感じながら、いつの間にかタイチの人間関係に嫉妬していることに驚いた。朱島は他人に執着するほどきれいな身体でも心でもない。雑念まみれだし、交友関係もわりと淫らである。それが朱島の生き方だったから、改める気がない代わりに、他人に強制もしなかった。
(……私としたことが……)
おそらくまだ二十代半ばと思われる青年を捕まえて、一人前に嫉妬するほど執着するなど、自分でも驚きだった。
「……朱島さん」
「ん?」
「何か、怒ってます?」
ここで憤りを身勝手にぶつけられるほど、朱島は単純にはできていなかった。婉然と微笑むと、「いや」と首を振る。
「きみと……もう少し仲良くなりたいと思っただけだよ」
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