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4.我がセクハラ王子さま
「……」
(あの?)
「……」
じっと見つめる紫の双眸。
『神の創りたもうた彫像のよう』だと言う人が多くいる程の美しい男。
だからこそ、その表情の乏しい顔でじっと見つめられると怖いし戸惑う。
「おいテメェ、馬に興味はあるか」
(馬?)
確かに少し興味はある。海底では間違いなく縁のない生き物だから。
無言で頷く。
「そうか。よし、来い」
「!?」
(うわぁッ、ちょっ、また……!)
この人、いつも僕を抱き抱えるように運びたがる。足が無いとでも思ってるんだろうか。
しかもライアンは僕の尻ばかり触りたがる。何が楽しいのか。さすったり掴んだり揉んだり。
居心地悪くて身動ぎすれば、嬉しそうに耳元で笑うもんだからゾワゾワしてすごく気持ち悪い。
ルイーズがいたら『変態王子が! 死ねッ』って遠慮なくぶっ叩いて泊めてくれるのに、今日は何故だか朝から彼女が居ない。
置いてきぼりくらったみたいでションボリしてたらこのザマだ。
(くそっ、君なんか怖くないんですからね! や、やだ……触らないで!)
しかも最近その手が前にまで伸びてきて気色悪い。
そのあれ、人間の男のシンボル。アレにまで手を伸ばして来るから、さすがにその手を引っぱたく。
「ふっ……そういう勝気な奴、嫌いじゃあないぜ」
(僕は嫌いですよ!)
するとギリギリと歯を食いしばった顔の額に、彼の唇が軽く触れて離れた。
(なっ!)
「真っ赤だぜ。生娘みてぇで可愛いな」
(君に『可愛い』なんて言われたくなーいッ!!)
「ぐふぅッ!」
八つ当たりと苛立ちと、一遍にまとめて繰り出した蹴りがライアンの股間に命中。
……小さく呻いて昏倒する彼を、僕は地面に投げ出されたままドヤ顔決めた。
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目の前は海である。
結局、あの後脅威の回復力を見せた変態王子……いやライアンは、何事もなかったような顔をして僕を馬に乗せた。
自らも前に乗って、いわゆる二人乗りでここまで来た訳だが。
「……」
……まただよ。
なんでこの人こんなに見つめてくるの!?
本当に変質者なのか。せめて喋ってくれないかな。
「……海は、良いな」
(あ、喋った)
突然だ。しかもそれきりまた黙ってしまう。
「そのなんだ……あー……好きだ」
海、好きなんだな。まぁ僕も嫌いじゃあない。
地上より地味だし娯楽は少ないけどね。でも、生まれ故郷だからそれなりに愛着はある。
そんな感情を込めて頷けば、口角を僅かに上げて微笑みらしいものを浮かべるライアン。
「……そうか。テメェもか。そうかそうか」
この後、何十回何百回も『そうか』を繰り返す人になった彼が、再びベタベタと抱きしめて来た。
だから今度は肘鉄を食らわして逃げることにした―――。
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