5 / 9

5.我が……って知るか!

その日は朝から城中がバタバタしていた。 普段あまり僕らの前に顔を見せない王や見慣れない客人達。 慌ただしい出入りに使用人達だけじゃなく、僕もどこかソワソワしていた。 「結婚だってさ」 「王が許されたらしいぞ!」 「ルイーズ様、思い切ったなぁ」 「まさかあの方が……」 ヒソヒソと交わされる会話の何一つ分からない。 でも僕にはその中に入る事もできないし、よしんば出来たとしても知りたくない気持ちが強かった。 「ディラン」 (ルイーズ!) 城の廊下を歩いていたらふと現れて、ちょいちょいと手招きする人影。 少し憔悴したような表情だが、顔色そのものは悪くない。 相変わらず可憐に優しげな微笑みを浮かべた彼女は、僕を自らの部屋に呼び入れて言った。 「ディラン。私ね、結婚することにしたわ」 (!?) 結婚……どういう事だろう。そう言えばあの時、そんな事を言っていたっけ。でもあれは。 「私は見つけたのよ。あの時私を助けてくれた、生命の恩人を!」 (ええっ、それってまさか) ……僕? もしかしてこの後の展開は『助けてくれてありがとう、結婚して! 抱いて!』ってやつか!? うそっ、マジで!? 夢か、夢じゃないよなッ!? 「ディラン」 彼女は突如近強く僕を抱きしめる。 ああ、なんだかこうしてみるとルイーズって兄貴似な所あるよね、うん。 今なら彼のこと『お義兄さん』って呼べる気がする。 うん! 呼ぶよ。もう『変態王子』なんて言わない、多分。 「貴方のおかげよ。あれから私、色々考えたの」 (僕は聞いてただけだよ。君自身が真実に辿り着いた、それだけだ) 「そう真実よ。私こそ見えてなかったのね。一番近くにその愛はあったわ……」 (あぁ、ルイーズ。君はそんなに僕のことを) 「偏見なんか何よ。そんなの私が変えてみせる。私が守ってみせるわ!」 (なんて強い女性だ。でも僕だって男だよ。君を守ることは……) 「本当にあんな近くの教会に居たなんて……盲点だったわね」 (え?) 「いやね? 探させてたんだけど、まさかあんなに近いとはね……しかも彼女! 本職の修道女じゃないのよ。単なる家庭の事情の一環で教会に居たって聞いて……」 (え? え? 待って待って……なにそれ!) 僕は思わず彼女を引き離してその顔を見つめる。 彼女は目にうっすら涙を浮かべて微笑んでいた。 「私ね……隣国の王女と結婚するわ!」 (う、う、う、うそぉぉぉぉっ!!!) ――― その場にぶっ倒れなかった僕を、誰か褒めて欲しい。

ともだちにシェアしよう!