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5.我が……って知るか!
その日は朝から城中がバタバタしていた。
普段あまり僕らの前に顔を見せない王や見慣れない客人達。
慌ただしい出入りに使用人達だけじゃなく、僕もどこかソワソワしていた。
「結婚だってさ」
「王が許されたらしいぞ!」
「ルイーズ様、思い切ったなぁ」
「まさかあの方が……」
ヒソヒソと交わされる会話の何一つ分からない。
でも僕にはその中に入る事もできないし、よしんば出来たとしても知りたくない気持ちが強かった。
「ディラン」
(ルイーズ!)
城の廊下を歩いていたらふと現れて、ちょいちょいと手招きする人影。
少し憔悴したような表情だが、顔色そのものは悪くない。
相変わらず可憐に優しげな微笑みを浮かべた彼女は、僕を自らの部屋に呼び入れて言った。
「ディラン。私ね、結婚することにしたわ」
(!?)
結婚……どういう事だろう。そう言えばあの時、そんな事を言っていたっけ。でもあれは。
「私は見つけたのよ。あの時私を助けてくれた、生命の恩人を!」
(ええっ、それってまさか)
……僕? もしかしてこの後の展開は『助けてくれてありがとう、結婚して! 抱いて!』ってやつか!?
うそっ、マジで!? 夢か、夢じゃないよなッ!?
「ディラン」
彼女は突如近強く僕を抱きしめる。
ああ、なんだかこうしてみるとルイーズって兄貴似な所あるよね、うん。
今なら彼のこと『お義兄さん』って呼べる気がする。
うん! 呼ぶよ。もう『変態王子』なんて言わない、多分。
「貴方のおかげよ。あれから私、色々考えたの」
(僕は聞いてただけだよ。君自身が真実に辿り着いた、それだけだ)
「そう真実よ。私こそ見えてなかったのね。一番近くにその愛はあったわ……」
(あぁ、ルイーズ。君はそんなに僕のことを)
「偏見なんか何よ。そんなの私が変えてみせる。私が守ってみせるわ!」
(なんて強い女性だ。でも僕だって男だよ。君を守ることは……)
「本当にあんな近くの教会に居たなんて……盲点だったわね」
(え?)
「いやね? 探させてたんだけど、まさかあんなに近いとはね……しかも彼女! 本職の修道女じゃないのよ。単なる家庭の事情の一環で教会に居たって聞いて……」
(え? え? 待って待って……なにそれ!)
僕は思わず彼女を引き離してその顔を見つめる。
彼女は目にうっすら涙を浮かべて微笑んでいた。
「私ね……隣国の王女と結婚するわ!」
(う、う、う、うそぉぉぉぉっ!!!)
――― その場にぶっ倒れなかった僕を、誰か褒めて欲しい。
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