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6.誰が短剣やねん、コノヤロー

「ンで。……しょぼくれてる、と」 (う……) 王女ルイーズが隣国の王女を嫁にする、そんなニュースは瞬く間に国中に駆け巡った。 不思議な事に、その中で誰一人彼女やその結婚相手を非難する民は居なかったらしい。 皆一様に祝賀ムードで、トントンと話は進み―――。 「おいおい。泣くなよォ」 婚約祝いの船上パーティーにて。 僕は甲板にでて失恋の痛手に泣きべそかいて、禁忌を犯して海上に出てきたアルが呆れたように慰めるといった具合だ。 (だって、だって……ぇ……) 「ひぐ……っ、ひっく……うぅ……っ」 泣くだけなら言葉は要らない。 喋れなくても子供みたいにしゃくりあげる僕に、馬鹿だけど気のいい魔法使いは大きな溜息をついた。 「まぁ、こんなこったろうと思ったがなァ」 (僕は思ってなかったよ! こんな形での失恋はさ……) まさか覚えてるのは僕だけで、ルイーズが言ってたのは砂浜から助け起こした修道女だったなんて! しかもそれが修道女じゃなくて隣国の王女で……女の子同士だけど結婚しちゃいます(ハート)なんて。 「ひっく、ひぐぅ……ぅ、うーっ! ぅ、う……」 「あーぁ、鼻水まで垂らしてォ。困ったなァ」 ……困ったことなんてあるか! 僕はこのまま泡にでもなんでもなって消えてやるぅぅーっ! 「馬鹿っ、早まるなっつーの!」 海に飛び込もうとした僕を彼が必死で止める。 でももう正直死んでしまいたかった。 自分の想いが届かなかったことだけじゃない。一瞬でも期待して浮かれた事が恥ずかしくて、黒歴史過ぎるッ! 「方法はあるんだ。魔法解く」 (……え?) 「その、あー……ええっと……『短剣』を使え!」 (短剣?) 「昔から人魚の魔法を解くには『短剣』を必要ってな!」 叫ぶ彼は何も持っておらず、何かを指さしているだけである。 僕はその指先をじっと眺めて。 (短剣……短剣……短剣?) 「そのお前の股間の『短剣』をッ、彼女にぶっ刺せェェェ!」 (ナニィィィィっ……って誰のが短剣やねんっ!!) 「ボギァッ!」 僕はツッコミ代わりに持ってた林檎を思い切り投げつけた。 奇跡の投球ホームでメリィィッ、と馬鹿魔法使いの頬にめり込むようにクリティカルヒットする。 奇妙な悲鳴を上げて吐血するアルを横目で睨み付けながら、自分のソレをそっと確認する。 (た、短剣じゃないもん……エクスカリバーだもん) 「お、怒るとこそこかよォ……ぐ、ぐふっ、とにかくエッチしろ。イチモツは刺しても刺されてもいい! とりあえず『愛を交わした』っていう既成事実を作っちまえ!」 (下品過ぎるッ!) 「ひでぶッ!」 ポケットに入ってた石ころを追加で叩き込み、完全に昏倒した彼がぶくぶくと海に沈んだのを見届けた時だった―――。

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