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7.我が愛しの勘違い
(あの馬鹿魔法使いぃぃっ)
単にセクハラ発言しに来たんじゃないか。人が失恋して死にかけてるって言うのに!
(あー、もういいや死のう)
幸せの絶頂の彼女を無理やり犯すほど、僕は鬼畜野郎じゃないし。むしろその幸せを祈って祝福の心で泡になれたら本望……って、嘘だ。すごく悲しいし怖い。
そりゃあアルの前で虚勢張ったけどさ! 本音は辛くて仕方ない。
僕なんて、愛されない男なんだ。人間になんてなって……馬鹿みたいだ。
――― 甲板の手摺に、滴った水滴をどこか他人事のように眺める。
せめて、最後に自分の言葉で想いを伝えたかったなぁ……あー、でもそういうのが彼女を困らせちゃうんだろうな。
「……何してんだ」
(あ)
背中にかけられた声に、振り返らなくても分かる。
「探したぜ」
一言だけ、そう言う。
のしのしと重い足音が近付いて来て、隣に立った大きな体躯。
(ライアン)
「泣いてたのか」
(!)
慌てて腕でぐしぐしと目元を擦る。
それを特に何も言わず見ている彼。
(花嫁の兄貴の前で泣くなんて)
あまり縁起のいい話じゃないもんな。
僕はそのまま真っ暗な海視線を落とした。
「ディラン……いや、リアン」
(えぇっ!?)
今、彼は僕の名前呼んだ。聞き間違いかと思って、思わず彼の顔を見ると相変わらず表情の読めない顔をしていた。
「俺の人魚姫」
(ば、バレてるぅ~! 思い切り人魚言われてるッ! えっ、なんで!? なんでだよっ)
テンパる僕に構うことなく、ライアンは僕の手を取って言う。
「テメェに、俺の『短剣』を突き刺させてくれねぇか」
「……」
(は?)
「俺の……」
(繰り返さなくていいッ! )
彼の口を慌てて押さえると、僕は混乱しまくる頭で考える。
まさかさっきの会話全部聞かれてた!?
いやいやいや、そうだよね。絶対聞かれてたよね。この反応。
……それにしても言い方! 恥ずかしくないのか、この男は。
さすが残念なイケメンってか。
くそっ、これだからイケメンは……。
「俺はテメェが好きだ。テメェも俺が好きで……問題ないな」
(へ? な、何を言って……)
「一緒に海に行った日、俺の告白に頷いてくれて嬉しかったぜ」
(告白? なに、それ……あっ!!)
まさかあの時の『好きだ』ってヤツ?
僕、確かに頷いたっけ。だってあれ。
……(海が)『好きだ』って意味じゃないの!?
「ルイーズが女と結婚するのは予想外だったが。次は俺たちだな。リアン」
(ま、ま、待って……誤解だ、誤解なんだ……)
手を掴まれ、どんどん距離を詰められる。
手摺を背にしてしまったお陰で、僕には逃げる場所もない。
しまいには背中にも手を回されて。鼻と鼻、唇と唇が触れ合う所まで……。
(だ、駄目っ、や、やめっ、こんな……ああ)
大写しになったすみれ色の瞳。すごく綺麗。
黒髪も、整った顔立ちも。なんなら豊かな胸(こっちは胸筋)も。
……け、結構、似てる、か、も?
(ってそんな訳あるかぁぁぁ)
ツッコミついでに現実逃避で目をつぶると、そっと唇に存外柔らかいモノが押し当てられた―――。
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