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8 嫌いになれない自分が嫌い

『うん、そうだ……最初は蕾の周りを撫でようか。丸く、円を描いてさするんだ。挿入するにはまだ早い。我慢だよ』 スマホの中のあなた…… 視線に犯されて。 露になった下半身に指を這わせている。 あなたの瞳。 気になって伏し目がちに見やるけれど……だめだ。あなたの顔見られない。 こんな恥ずかしい俺の姿。 見ないで…… 『いけないね。よそ見は』 「でもっ」 『でもじゃないよ』 背けた視線は、欲情を潜めた声に絡めとられる。 『そう……私を見ようか。手がお留守だね。止まってしまっているよ。私がいつも、君に施しているんだ。やり方、分かるね?』 (いつも……って) 涙がにじんだ。 『前を触りたいかい。パンパンに反り返って恥ずかしいね。小さいくせに』 「言うなぁ~」 『ほんとの事だろう。おや、鈴口から雫を垂らして、これはなんだろう』 「あなたが~」 『君から垂れているのは私かい?違うね。私の分身は、ここだ。ほら、よく見るんだよ』 下半身の中心、盛り上がっている。 『私の分身だ。形も手触りも、よく知っているね。手と口で、いつも愛でてくれるからね』 (いつも……って、また言う) 「ちがう」 『違わない』 液晶の中のあなたの手が、そそりたつ熱欲に手を伸ばした。 撫で上げる。 ハアァ…… 熱に浮かされた溜め息が、形良い唇の狭間から木漏(こも)れた。 『君に触って欲しいよ』 (俺も) 『欲しいくせに。そうやって目を背ける』 (俺だって……) 『反抗期かな』 右の高角を上げて小さく笑うあなたが憎らしい。 「そんな君も可愛いね」 「うそつき」 『嫌いじゃないくせに』 (俺の目の前にいるあなたは全部……) 『また意地を張る』 虚構(うそ) 『そうじゃないね。私を見なさい』 嫌だ。 『うん。いい子だ。可愛いね。お前の茜色の瞳、好きだよ』 嘘つき。 俺はあなたを見ていない。 きゅっと目を瞑ってるから、瞳の色も見えていない。 あなたから、俺は見えていない。 『私には……君だけだ』 滑り落ちた涙はすとんと、絨毯を塗らした。 『私は世界一の幸せ者だよ』 あなたを幸せにするために。 俺は、あなたから離れたんだ。 嘘をついているのは俺で、スマホの中のあなたは虚構 過去のあなたの映像を繋ぎ合わせただけの、あなたの虚像だ……… 今のあなたは、ここにいない。 あなたは俺を見ていない。 どうしよう。 体、気持ちいい筈なのに。 涙が止まらない。

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